もくじ
きっかけはペットショップのチラシ ~ボブ編~
約10年ほど前、我が家の住宅地周辺で空前のペットブームが起こりました。
当時小学生だった私は、仲の良かった友達がミニチュア・ダックスフンドを迎えたのを見て、犬と暮らしたい気持ちがどんどん強くなっていきました。
それからというもの、私は父と母に犬がほしいとしつこくせがみました。
近所に住む友達のお母さんが、最近オープンしたばかりのペットショップのチラシを私にくれたので、それ持って再度父と母に交渉した結果、父は「飼うなら超大型犬がいいね」とバーニーズ・マウンテン・ドッグの仔犬を指差し、掲載されていた仔犬を見に行くことになりました。
念願のペットショップ
すぐにチラシに載っていたバーニーズ・マウンテン・ドッグの仔犬を抱っこさせてもらいました。
大きなおてて。ずんぐりむっくりした黒い体。
ネイビーのうるうるした瞳。
バーニーズ・マウンテン・ドッグの仔犬ってとても可愛いんですよね。
家に連れて帰る気満々になってしまいました。
けれど、私たちは犬初心者です。
大型犬を飼ったことがない私たちにとって「しつけがちゃんとできるか」という大きな不安がありました。
超大型犬とは知っていましたが、実際にどのくらい大きくなるのか、バーニーズ・マウンテン・ドッグはどんな性格なのか、まったく見当がつきませんでした。
今でこそスマホでちょちょいと調べればたくさんの情報が出てきますが、当時はそんなものはありませんでしたので、同じ敷地内にある大型ショッピングセンターの本屋さんで情報収集をすることにしました。
「バーニーズ・マウンテン・ドッグはまさに理想的な家庭犬」
・室内で飼える
・子供に友好的
・においも少ない
・しつけもしやすい
という理由から我が家にピッタリだと感じました。
飼おうと思い再びペットショップに戻りましたが、もうそのバーニーズ・マウンテン・ドッグの仔犬は、他の人の家族になっていました。
出会ってからたった2時間足らずの出来事です。
幼かった私は号泣しました。
それを見かねたペットショップのお姉さんが、「2週間待てばバーニーズ・マウンテン・ドッグの仔犬をお取り寄せできますよ」とおっしゃってくださり、父が予約をしてくれました。
けれど、今日ワンコを連れて帰れる!とすっかりその気になっていた私は、帰りの車の中でずっと泣いていました。
どうしてもバーニーズ・マウンテン・ドッグがほしい
その日の夜、父と母がパソコンで近くのペットショップを調べ、隣県にバーニーズ・マウンテン・ドッグの仔犬がいることがわかり、翌日見に行くことになりました。
そこで出会ったバーニーズ・マウンテン・ドッグの仔犬は少しいじけていましたが、父はその物憂げな子に運命を感じたらしく、その場でお迎えすることを決めました。
ペットショップで犬用のキャリーケースとペットシーツ、ドッグフードを買い、家に連れて帰りました。
最初に出会ったバーニーズ・マウンテン・ドッグと縁がなかったのは、ボブに出会うためだったのかもしれません。
そう思えるくらい、ボブとの生活はかけがえのないものとなりました。
ボブ・ディランから取って「ボブ」
ペットショップの帰りに寄った近所のスーパーの駐車場で、買い物をする母を待つ間、父はその子をキャリーから出しました。
運転席でライオンキングのように高い高いをして愛おしそうに仔犬の顔を見つめ、「ボブ」と名づけました。
この子の顔を見たとき、ボブ・ディランの曲「風に吹かれて」が頭に浮かんだそうです。
ペットショップで運命の出会い ~トム編~
末期がんになったボブを6歳で看取り、その後すぐにブリーダーから迎えたセバスチャンというバーニーズ・マウンテン・ドッグも病気で4歳という若さで亡くしました。
比較的若いうちに犬を二度も亡くした父と母は、もう犬は飼わないと思っていました。
けれど、中学生の弟は「犬のいない暮らしに耐えられない」と父にしつこく言っていました。
4歳の頃から犬と一緒に育った彼の心には、ぽっかりと空洞ができてしまったのです。
私はセバスチャンが3歳の時に家を出ましたが、帰省したときに犬がいないのはとても寂しく、「犬がいないなら実家に帰る意味がない」とさえ感じていました。
ダルメシアンの仔犬に胸ズキュン
ここから先は父から聞いたお話です。
ある日家族で隣県のショッピングモールに行きました。
すると、今までなかったところにペットショップができていたので、母と妹はどんな犬がいるかなーという軽い気持ちで見に行きました。
幼い妹に犬を見せたかっただけで、もちろん飼うつもりはありませんでした。
父はもう犬は飼わないと思っていたので、外で待っていることにしました。
けれど母と妹はなかなか帰って来ません。
仕方がないので呼びに行くことにします。
大型犬はいないんだろうな、と思いながら店内に入ると、ダルメシアンの仔犬が背を向けて横になっていました。
父は色んな犬に興味がありますが、でも特別飼いたいとは思っていませんでした。
ダルメシアンの仔犬は珍しいなぁと思い眺めていると、ひょこっとこっちを向いたのです。
その顔がとても可愛くて、母と妹に『見て見て!』と声をかけました。
そこですっかりダルメシアンのその子に一目惚れをした父は、「この子を連れて帰りたい」と母を1時間かけて説得し、成功します。
家で留守番をしていた弟に、メールで「この子はどうか」と相談し、結果的にその日のうちにお迎えすることに決めました。
ボブの経験から、明日にはもうこの子はいないと確信していましたし、なにより胸ズキュンだったので、とにかく無我夢中だったそうです。
トムはお店に出て初日だったらしく、これも運命なのだね~と父は言っていました。
こうして我が家にまた犬がやってきました。
弟にトムと名付けられたその子は、すくすくと育っています。
一生を預かるということ
近年、ペットショプでの衝動買いをはじめとして、安易にペットを迎えた結果の飼育放棄などが原因となり、犬や猫の殺処分が問題となっています。
アニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から、生体販売についても様々な議論が交わされています。
「ボブも心無い人に買われていたら、病気が発覚したり、手に負えなくなったら捨てられていたかもしれない。そうならなくて良かった。パパのところに来てくれて本当に良かった」
ボブが壮絶な闘病の末息を引き取った少し後、父がこぼしたこの言葉が今も耳に残っています。
バーニーズ・マウンテン・ドッグのボブは、生後7ヶ月くらいで先天性股関節形成不全が発覚しました。
入院して手術を受けてもらい、家に帰ってからは床ずれの治療やマッサージなどできることは何でもしました。
末期ガンがわかってからは、父は仕事を休んででも病院に連れて行ったり、寝る間も惜しんで看病したりしました。
たとえ犬だとしても大切な家族だから。
私たちがこの子の命を、生涯を預かると決めたのだから。
どこで出会うかはあんまり問題ではなくて、たまたま運命の子に出会えたのが私たちの場合はペットショップだった。
ただそれだけです。
ペットショップについてはいろいろな批判もありますが、私はこの子たちに出会えて、人生を共にすることができてとても幸せです。
生まれてきてくれて、私たち家族を選んでくれて、本当にありがとう。
監修者プロフィール
獣医師 藤沼 淳也
獣医学部卒業後、動物病院にて臨床業務に従事。
猫専門病院の院長を経て、現在はより良いペットの生活環境の構築に尽力。