もくじ
所有者不明として収容されるペットたち
迷子になったペットは、各自治体の保健所に収容されることが多いものです。
実際に環境省が発表している「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」を見てみると、収容されているペットの多くが所在者不明であることが分かります。
令和2年度の統計を見てみると、保健所に収容された犬は27,635頭で、そのうち24,934頭(全収容数の90%)が所有者不明です。
そして、猫の場合は全収容数が44,798頭であるのに対し、所有者不明で収容された猫は34,319頭(全収容数の77%)でした。
もちろん、所有者不明のペットたちの中には野良で生活をしていた子も含まれています。
しかし、こうした環境省のデータを見てみると、迷子になり、所有者不明のまま収容されてしまうペットたちは意外に多いのだということも分かっていただけるのではないでしょうか。
また、これだけの数のペットたちが収容されているのにもかかわらず、返還数が低いのも迷子のペットが多く収容されているからだといえるでしょう。例えば、犬の場合は全収容数に対して返還されたのは、9,463頭(全収容数の34%)だと記されています。そして、猫の場合はさらに低く、返還されたのはたった255頭(全収容数の1%)でした。
こうした現実的な数字を見ていると、迷子になったペットたちの未来は決して明るくはないのだということを理解していただけるのではないでしょうか。
【悪いケース】迷子になったペットに起こり得ることとは?
1.事故にあう
ペットが迷子になったときに一番心配しなければならないのが、事故です。
中でも、おうちの中での生活に慣れている完全室内飼いのペットたちの目に、外の世界は新鮮に映ります。
特に年齢が若いうちは、好奇心から自動車に近づきたくなり、車道に出てしまい、自動車にはねられてしまうことも少なくありません。
また、普段から警戒心が強い子も事故にあう確率が高くなってしまいます。
警戒心が強い子にとって外の世界は刺激が強いため、大きな恐怖を感じるのです。
恐怖を感じたペットは身動きがとれなくなってしまったり、パニック状態になってしまったりするため、車道に飛び出してしまう可能性も高くなるといえるでしょう。
2.保健所に収容されてしまう
先ほどの環境省のデータからも分かるように、保健所には所有者不明のペットたちが数多く収容されています。
保健所に収容されているペットたちは、いつまでも生きられるわけではありません。
自治体によって殺処分までの期間は多少の違いがありますが、多くは10日間程度しか猶予がないといわれています。
また、飼育に手間がかかる乳飲み子の場合は殺処分が早く行われてしまうという事実もあるようです。
環境省が発表した令和2年度の「犬・猫の引取り及び処分の状況」を見てみると、犬の場合は全収容数27,635頭に対し、4,059頭(全収容数の15%)が殺処分になっており、猫の場合は全収容数44,798頭に対し、19,705頭(全収容数の44%)が殺処分されています。
しかし最近では、各自治体も譲渡に力を入れているため、殺処分されるペットの数は減りつつあります。
自治体によって、地域のボランティア団体と協力して譲渡率をあげたり、収容期間を延長したりして、ペットの命を守れるよう、力を入れているのです。神奈川県は、犬は平成25年度から8年間、猫は7年間殺処分ゼロを達成しています。
そして、猫に関しては最近、里親募集型の猫カフェが増えたこともあり、保健所から引き出してもらえるケースも多くなってきているようです。
3.餓死してしまう
人間に飼われているペットたちは、狩りをしなくてもご飯が毎日手に入るのが当たり前になっていますよね。
そのため、迷子になったときに狩りができず、飢え死にしてしまう子も少なくありません。
中でも、小さい頃から人間の手で育てられた完全室内飼いの子は狩りの仕方を学んでいないため、獲物をうまく捕まえられないことも多いのです。
こうした子は、食べ物を自力で手に入れられないため、野良として生きていくこともできず、餓死してしまいます。
おうちの中とは違って、外は弱肉強食の厳しい世界なので、迷子と餓死は切り離せないほど密接な環境だといえるでしょう。
4.人間や他の生き物とのトラブルも発生!
迷子になったペットは、他の生き物とのトラブルを起こしてしまう可能性もあります。
猫の場合は同じ猫同士で縄張りを争って怪我をしてしまったり、小動物に危害を加えてしまったりする危険性もあるでしょう。
そして、犬の場合も犬同士で喧嘩をしたり、他の動物に噛みついたりしてしまう可能性もあります。
また、迷子のペットは動物だけでなく、人間ともトラブルを起こしてしまうことがあります。
飼い主さんに対しては噛まない犬でも、見知らぬ人に対しては警戒心を抱くので、思わず噛みついてしまうことだってあるはずです。
そして、猫はより警戒心が強いため、見知らぬ人を激しく攻撃してしまうことも少なくありません。
さらに、ペットたちの糞や尿に悩まされる人が出てくると、迷子になったペットたちは野良としても生きられなくなる可能性もあるのです。
【良いケースも!】迷子になったペットたちに起こり得ることとは?
1.保護団体に保護してもらえることも
殺処分ゼロへの関心が高まりつつある今は、保護団体から迷子になったペットたちに救いの手が差し伸べられることもあります。
保護団体によって保護してもらえた迷子のペットたちは、飢える心配がなくなります。
そして、保護団体主催の譲渡会やネットでの里親募集によって、新しい飼い主さんと出会うことができるようにもなるので、命を落とさずにすむのです。
保健所と違って保護団体には、命の期限がありません。
愛情をたくさん受けながら新しい飼い主さんを待つことができるというのは、迷子になったペットたちにとってもありがたいことです。
2.他の人に拾われて新しい生活をスタート
迷子になったペットがいつまでたっても帰ってこないと、つい悪い想像ばかりをしてしまうものですよね。
しかし、中には迷子中に他の人から気に入られて、違う場所で新たな生活を初めている場合もあります。
こうしたケースは、特に愛くるしい印象を与える子猫や子犬が迷子になったときに多くみられるでしょう。
ただし、中には動物を虐待目的で連れて帰るような心無い人もいます。
そのため、拾われた人の人柄によってペットの今後の生活が大きく左右されるというリスクもあるのです。
3.飼い主さんのもとに戻ってくる場合もある!
動物には、自分の住んでいた土地に戻ってくる「帰巣性」という性質があります。
こうした能力は「帰巣本能」といわれており、犬や猫の他には伝書鳩や蜜蜂、蟻などにも備わっています。
実際に海外では飼い主を求めて、およそ4,800キロもの距離を歩いた犬や、2か月かけて320キロほど離れた土地から帰ってきた猫がいます。
ただし、帰巣本能は犬種によって差があったり、いつも同じ散歩コースのみを歩いていたりする場合はあまり威力を発揮しないとも言われているので、注意が必要です。
また、完全室内飼いの場合も帰巣本能を頼りにしながら家へ帰ることは不可能だとされているので、あらかじめ理解しておきましょう。
我が家のペットを迷子にさせないための対策法とは?
1.室内飼いにする
外での生活は自由がある分、迷子になるリスクも高くなるので、迷子対策も兼ねて室内飼いを検討してみましょう。
室内飼いにすれば、迷子になるリスクを減らせるだけでなく、感染症などの病気からペットの命を守ることもできます。
また、野良犬や野良猫との交尾で望まれない命を宿らせないというメリットもあるのです。
2.不用意に人混みへ連れて行かない
ペットが迷子になるのを避けるためには、飼い主さん自身の行動を見つめ直してみることも大切です。
例えば、常に一緒にいたい気持ちから、人混みの中へペットを連れていく機会が多いという方は要注意。
人混みは、動物に強い刺激を与えます。
警戒心が強かったり、繊細な性格だったりする子の場合は、人混みを怖く感じ、パニック状態から迷子になってしまう可能性もあるので、注意しましょう。
また、人混みと同じで花火会場などといった大きな音がする場所も動物の警戒心を刺激してしまいます。
ですから、そうした場所に訪れることが多い方は、あらかじめ知らない場所や見知らぬ人に関わる機会を増やしていき、ペットがパニックを起こしてしまわないように配慮していきましょう。
3.首輪やハーネス、リードはこまめにチェック
犬は散歩が好きな動物なので、猫よりも外へ出る機会が多くなります。
そんなとき、迷子対策としてチェックしてほしいのが首輪やハーネスのサイズがあっているかどうかです。
引っ張ったときに抜けてしまうような大きさのものは、飼い主さんが目を離したとき、迷子になってしまう可能性があります。
また、首輪やハーネスのサイズと同じように大切なのが、リードの消耗度合いをチェックしておくことです。
リードは強い力が加わるアイテムだからこそ、切れそうになる前に新調して、万全の状態を整えておきましょう。
4.室内飼いの場合は戸締りをしっかりと!
室内飼いのペットたちを迷子にさせないためには、脱走防止対策をしっかりと行いましょう。
特に、夏場は窓を開ける機会も多くなるので注意が必要です。
留守中はもちろん、飼い主さんが目を離さなければいけないときは、窓をこまめに施錠しましょう。
また、急な来客時に玄関から脱走してしまうペットも少なくありません。
玄関からの脱走を防止するには、脱走防止柵を設置したり、玄関チャイムの近くに「脱走注意」のステッカーを貼って注意喚起をしたりするのもおすすめです。
5.避妊・去勢手術は必ず行おう
発情期になると動物は、異性を求めて普段よりも遠い場所へ出かけるようになります。
一説では、動物が発情期に抱く性欲は人間と比べものにならないほど強いといわれており、交尾をできないこと自体が強いストレスになるといわれているのです。
そのため、室内飼いの場合でも交尾をしたくて家から飛び出してしまう子も少なくありません。
発情期に脱走してしまった場合は、普段よりも遠くへ出かけてしまうので捜索も難しくなります。
こうした事態を避けるためには、ペットが発情期を迎える前に避妊・去勢手術をきちんと受けさせるように配慮していきましょう。
迷子になってしまったときに役立つものとは?
1.首輪には迷子札をつけよう
迷子になってしまったときに役立つのが、飼い主さんの住所や連絡先を記した迷子札です。
いつもの首輪につけておけば、万一、迷子になってしまっても飼い主さんのもとに戻ってきやすくなります。
また、迷子札は迷子になったときだけでなく、震災などが起きてペットが逃げ出してしまったときにも役立ってくれるので、ぜひこれを機に検討していきましょう。
2.マイクロチップの装着も検討しよう
あらかじめマイクロチップをペットに装着し、データベースに情報を登録しておけば、飼い主さんの元に迷子になったペットが戻ってきやすくなります。
マイクロチップは8mm~12mmの長さで、2mm程度の円筒形をしている電子タグのことです。
中には15桁の数字が世界でただ一つの個体識別番号として記憶されており、読み取りには「マイクロチップリーダー」という専用の読み取り機を使います。
マイクロチップリーダーで読み取れるのは番号だけですが、ペットを保護した行政機関や動物病院がマイクロチップリーダーで番号を読み取り、データベースに登録された情報を照合することで飼い主さんの元へ帰ることができます。
マイクロチップは動物病院で獣医師が専用のインジェクター(チップ注入器)で犬猫の首の後ろなどに埋め込み装着します。皮下に埋め込むため、迷子札のように外れる心配はありません。マイクロチップは電池の交換は不要で、一度埋め込めば犬猫の生涯にわたって、半永久的に使用することが可能です。
令和4年6月1日に動物愛護管理法が改正され、ブリーダーやペットショップなどの業者や、犬猫を購入した人は、マイクロチップの装着と情報登録が義務づけられます。しかし、保護団体、知人から譲り受けた人、保護した人、すでに飼育している人は努力義務となります。
飼い主さんの中には、愛するペットの体内にマイクロチップを埋め込むことに抵抗を感じる方もいるかもしれません。しかし、マイクロチップが発する電磁波は体内に悪影響を及ぼさないという研究データもあり、レントゲンやCTスキャンが乱れる心配もありません。マイクロチップは、ペットを守るために有効ですので、マイクロチップの装着も検討しましょう。
もし迷子になってしまったらどうすればいいの?
問い合わせ先はどこ?
ペットが迷子になったときは、まず都道府県警察に連絡をしてみましょう。
迷子のペットを見かけた人が、警察に届けてくれることもあるからです。
電話番号は「#9110」で、住んでいる地域の都道府県警察相談窓口に繋がるようになっています。
そして、警察以外には保健所や動物保護センターにも電話をしてみましょう。
保健所や動物愛護センターは警察のように情報を共有していないので、ペットが行く可能性がある地域に問い合わせてみましょう。
また、HP上では保護されたペットの情報が公開されているので、こまめにチェックをすることも重要です。
保健所や動物愛護センターは命の期限が決まっているので、こまめに連絡をするようにしましょう。
どうやって探せばいいの?
愛猫・愛犬の行動範囲を探そう
犬の場合は、最後に走り去っていった方向に着目しながら探してみましょう。
小型犬の1日の移動距離は、およそ200m~1キロ、大型~中型犬の場合は1~5キロ程度といわれています。
そのため、探すときは移動距離と迷子になった日数をかけて、最大移動距離を出し、その円周内を捜索しましょう。
対して猫の場合は、去勢済みのオスの場合は200m~500m、未去勢のオスは500m~1キロが1日の移動範囲です。
オスよりは狭いですが、メスも避妊済みの場合は50m~150m、未避妊だと150~250mが移動範囲だといわれています。
探すときは、最大移動範囲+移動距離×日数を計算し、その範囲をチェックしてみましょう。
さらに、猫は夜間になると警戒心が強くなるので、昼~夕方にかけて探すのがおすすめです。
また、飼い主さんひとりで探すのには限界があるため、ポスターやチラシなどを用意したり、ネットで情報提供を求めるのも大切な対策法だといえます。
大切なペットが迷子になってしまうと、気が動転してしまうものです。
そんなときだからこそ、普段から愛犬や愛猫が気に入っている場所を冷静に思い起こして、一刻も早く保護できるように努力していきましょう。