【獣医師監修】愛犬を守る予防接種~ワクチンの種類・選び方・注意点について知ろう~

2023.05.29

  • ワクチン

【獣医師監修】愛犬を守る予防接種~ワクチンの種類・選び方・注意点について知ろう~

わんちゃんには、発症すると治療が難しく死に至る病気や人に移る感染症が存在します。
これらの恐ろしい感染症はお散歩など日常生活の中で感染してしまう可能性も十分にあります。

また、トリミングサロンやペットホテル、ドッグランなどわんちゃんが集まる場所では感染症の拡散を防ぐために、ワクチンを打った証明書の提示が必要な場合があります。
わんちゃんといろいろな所へ行き、楽しむためにもワクチン接種することは欠かせません。

ワクチン接種は、大切なわんちゃんの健康を守ることにつながります。
ワクチン接種で予防できる病気やワクチンについて学び、知識を身につけましょう。

1.犬の狂犬病ワクチンは飼い主の義務!~発症すれば100%死亡する恐ろしい病気から守るために~

狂犬病は、発症するとほぼ100%死亡する恐ろしい病気です。 狂犬病は犬だけでなく、人を含むすべての哺乳類が感染する人獣共通感染症(ズーノーシス)です。
狂犬病に感染した犬や動物に噛まれ、唾液中のウイルスが傷口に触れることで人に感染します。
発症すると発熱などの症状が見られ、次第に神経症状が現れます。神経が過敏になり、激しい興奮や不安感、精神錯乱などが見られ、口や喉の麻痺やけいれんにより水を飲めなくなり、水を見ただけで恐がる様子から「恐水病」とも呼ばれています。最終的には全身麻痺になり昏睡し死に至ります。

狂犬病は現在、日本では発生していません。しかし、日本、オーストラリア、イギリスなど一部の国を除いて世界中で発生しています。そのため、海外旅行をした人や来日した人が国内で発症したり、外国からの動物の輸入などから日本に持ち込まれる可能性があります。
実際に2006年、フィリピン滞在中に犬に噛まれワクチン接種を受けずに日本に帰国し狂犬病を発症し死亡した事例が2件、2020年にはフィリピンから来日した人が日本で狂犬病を発症し死亡した事例が1件ありました。

現在、世界中で狂犬病が蔓延しているなかで、狂犬病が日本で発生し、感染拡大する可能性はゼロではありません。
狂犬病の人への感染のほとんどが犬によるものです。
そのため日本では、生後91日以上の犬の飼い主は、毎年1回狂犬病ワクチンを接種させることが法律で義務付けられています。
飼い主として、この義務を必ず果たし日本を狂犬病から守りましょう。

犬の狂犬病ワクチンは飼い主の義務!~発症すれば100%死亡する恐ろしい病気から守るために~

2.どうやって選べばいいの?~犬の混合ワクチンの種類と選び方~

犬の混合ワクチンは、複数の感染症を同時に予防し、致死率の高い感染症を予防する「コアワクチン」と感染リスクの高い犬に推奨される「ノンコアワクチン」に分類されます。

犬が集まる場所に頻繁に出かける場合や、他の犬と接触する機会が多い場合、旅行でキャンプに行ったり、川など自然に触れる、野生動物の多い地域に住んでいる場合など…
様々な飼育環境によって、摂取するワクチンを選択する必要があります。

獣医師さんと相談して、愛犬の生活環境や健康状態に合わせて、適切な混合ワクチンを選択することが大切です。
犬のワクチン接種は、犬の健康を保つために欠かせないものであり、定期的な接種が必要です。

混合ワクチンで防げる感染症

◆5種混合ワクチン:1~5 ◆6種混合ワクチン:1~6
◆8種混合ワクチン:1~7(犬レプトスピラ感染症:カニコーラ型、イクテロヘモラジー型)
◆9~11種混合ワクチン:1~7(犬レプトスピラ感染症の血清型が増えます)

コアワクチン

  • 1.犬ジステンパー
    発熱、咳、鼻汁、下痢、嘔吐などのケンネルコフ(犬風邪)のような症状がみられますが、重症化すると神経や消化器、呼吸器などに症状が起こり、歩行障害やけいれんが見られることも。子犬の場合死亡率も高い感染症です。
    犬ジステンバーは感染力が強く、犬同士の接触や汚染された物質との接触、咳やくしゃみなどで触れずとも感染する可能性があります。
  • 2.犬パルボウイルス感染症
    腸や骨髄などの細胞を破壊するウイルス感染症です。発熱、下痢、嘔吐、脱水などの症状があり、重症化すると命を落とすことも。
    パルボウイルスは非常に強く長く生存し、消毒が難しいウイルスのため、感染拡大しやすい感染症です。
  • 3.犬アデノウイルス1型感染症(犬伝染性肝炎)
    肝炎や発熱、食欲不振、嘔吐、下痢、腹痛、黄疸などの症状を示します。
    感染した犬との接触や、尿や糞便、唾液などを介して感染することがあります。子犬が突然死する場合もあります。
  • 4.犬アデノウイルス2型感染症(犬伝染性喉頭気管炎)
    乾いた短い咳、鼻水、発熱などケンネルコフと呼ばれる症状がみられます。
    他の感染症と混合感染すると肺炎など重篤な症状を引き起こすことがあります。

5.犬パラインフルエンザウイルス感染症
犬アデノウイルス2型感染症と同じくケンネルコフと呼ばれる症状がみられます。
感染力が高く、犬同士の接触や感染した犬が触れた物品を介して感染します。

6.犬コロナウイルス感染症
犬の腸管に感染し、発熱、下痢、嘔吐、食欲不振などの症状を引き起こすウイルス感染症です。
軽症で自然治癒する場合が多いですが、子犬や犬の免疫力が低下している場合、他の感染症と合併している場合には、重篤化することがあります。

7.犬レプトスピラ感染症
レプトスピラ菌による感染症で、人獣共通感染症(ズーノーシス)の一種です。
野生動物やその排泄物との接触が感染源となり、症状は発熱、食欲不振、嘔吐、下痢、筋肉痛、黄疸などがあります。
重症化すると臓器にダメージを与え、死に至ることもあります。
混合ワクチンの数字が増えるとカニコーラ型、イクテロヘモラジー(コペンハーゲニー)型、ヘブドマディス型、オータムナリス型、オーストラリス型など異なる血清型の種類が増えます。

3.ワクチン接種は年に1回でいいの?~犬のワクチン接種プログラム~

ワクチン接種プログラムとは、犬に必要なワクチンをどの時期に接種するか計画をたてることです。

混合ワクチンは1年に1回摂取するイメージを持っている方がありますが、子犬で初めて混合ワクチンを接種する場合は、3~4週間程度の短い期間で追加接種します。
1回のワクチン接種では十分な量の抗体が作られない可能性があるため、追加で接種することで確実に抗体を作り、感染症に備えます。

子犬の場合、母犬の初乳に含まれる移行抗体を飲むことによって免疫を得ます。
しかし、この移行抗体があると混合ワクチンを接種しても十分な量の抗体が作られないため、初乳による免疫が切れかけた頃に1回目のワクチンを接種し、3週間程度開けて追加摂取します。
そうすることで子犬は母犬からもらった移行抗体が切れても免疫を得ることができます。

また、ワクチンは接種して時間がたつと予防効果が薄れます。愛犬の健康を守るためには1~3年ごともしくは抗体検査をし、抗体の少なくなったタイミングでの追加接種が必要です。

ワクチン接種プログラムの例

■子犬の場合
1回目:生後6~8週齢(生後2か月ごろ)
2回目:1回目接種から3〜4週間後(生後3か月ごろ)
3回目:2回目接種から3〜4週間後(生後4か月ごろ)
4回目:生後6~12か月
その後は1~3年ごともしくは抗体が少なくなったら接種

■子犬以外の場合
接種可能な時に1回接種
その後は1~3年ごともしくは抗体が少なくなったら接種

※ワクチン接種プログラムは獣医師さんの方針によって異なります。検討する際には必ずかかりつけの獣医師さんにご相談ください。

また、ワクチン接種による副反応のリスク軽減のため、狂犬病ワクチンと混合ワクチンの接種は接種時期をずらす必要があります。
先に狂犬病ワクチンを接種した場合は1~2週間以上、先に混合ワクチンを接種した場合は2週間~1か月以上間隔をあけましょう

4.ワクチン接種を受ける際の注意点

予防接種は犬が健康でなければ打つことができません。
当日は、元気・食欲があるか、吐いたり下痢をしていないかなどわんちゃんの様子を良く観察しましょう。

ワクチン接種後はごくまれにアレルギーによる副反応が出ることがあります。
可能性は低いですが、血圧が低下し意識を失ったり、呼吸困難となり命に危険が生じるアナフィラキシーショックを起こす可能性もあるため、アナフィラキシーショックが起こりやすい接種後30分程度はわんちゃんから目を離さず、異常がある場合迅速に動物病院に連れて行きましょう。

副反応には顔が腫れたり(月のように丸く腫れるためムーンフェイスと呼ばれています)、皮膚が赤くなる、かゆがる、よだれが出る、嘔吐などの症状が出ることもあり、このような症状が出た場合も速やかに動物病院に相談しましょう。
また、このようなアレルギー反応は半日~24時間程度時間がたってから症状がでることもあるため、遅い時間に接種すると動物病院で対応できないことも。そのため、万が一に備えて、お近くの動物病院の診療時間や救急病院の場所等をあらかじめ調べておくと良いでしょう。

ワクチン接種直後に免疫ができるわけではなく、抗体ができるまでワクチン接種後2~3週間程度かかります。
ワクチン接種後2~3日はなるべく安静にし、激しい遊びなどの運動やシャンプーは避け、ストレスがかかることを避けましょう。

子犬の場合、お散歩デビューできる時期も獣医師さんにしっかりと確認しましょう。

ワクチン接種を受ける際の注意点

大切な家族を守るためのワクチン接種

予防接種は、命にかかわる恐ろしい病気から家族を守ります。
縁あって巡り合えた大切な家族、いつまでも元気でいてほしいものです。
大切な家族の健康は、私たち飼い主の手にかかっています。しっかりとした知識を身につけて、家族を守ってあげましょう。

SBIプリズム少短の獣医師 藤沼淳也

監修者プロフィール

獣医師 藤沼 淳也

獣医学部卒業後、動物病院にて臨床業務に従事。
猫専門病院の院長を経て、現在はより良いペットの生活環境の構築に尽力。

お役立ち情報、コラム一覧へ戻る