【獣医師監修】ペットロス症候群とは?~失った愛犬・愛猫への感情と向き合う方法~

2023.11.22

  • ペットロス

【獣医師監修】ペットロス症候群とは?~失った愛犬・愛猫への感情と向き合う方法~

皆さんは、ペットと初めて出会った日のことを覚えていますか?
希望に満ち溢れて、これからの生活に胸を高鳴らせていたことでしょう。それから楽しい時、悲しい時、様々な時を一緒に過ごしましたね。

ペットはあなたの生活の一部となり、たくさんの幸せを与えてくれました。しかし、別れの時は必ず訪れます。心から愛しているペットを失った悲しみは計り知れないものです。

「ペットロス症候群」とは、ペットの「死」や「突然の別れ」からペットを失うことで生じる精神的・身体的な不調です。

愛する存在を失った喪失感は計り知れず、気持ちが落ち込んでしまうのも当然です。まずは現状を受け止め、少しずつ悲しみから立ち直りましょう。

ペットロス症候群になるとどうなる?~症状と心情の過程~

「ペットロス症候群」はペットを愛し、共に暮らしていた方であれば誰にでも起こり得ます。

ドイツの精神科医エリザベス・キューブラー=ロスは、人の死の受容過程は「否認→怒り→交渉→抑うつ→受容」の5段階を経て進行すると説きました。
人により順番が前後したり、すべての段階を経験しないこともありますが、この5段階モデルはペットロスにも「悲しみの5段階モデル」として当てはめることができます。

ペットロス症候群になるとどうなる?~症状と心情の過程~

悲しみの5段階①~否認~

ペットを失ったことを受け入れられない、目の前の状況を否定している状態です。

悲しみの5段階②~怒り~

後悔や疑いの気持ちが大きくなり、その気持ちが高じて怒りの感情となる段階です。
「なぜ早く病気に気付かなかったのか、早く病院に連れて行かなかったのか」、「もっとかまってあげれば良かった」など自分自身に対しての怒りや、「獣医師の治療が適切でなかったのではないか」など他人に対して怒りの感情を持ちます。

悲しみの5段階③~交渉~

「この子を生き返らせてください」など、神様や仏様などにすがることで一時的にでも現状から抜け出そうとするような段階です。

悲しみの5段階④~抑うつ~

神様や仏様に祈っても愛するペットは戻ってこないとわかり、深く落ち込んだり、虚無感にとらわれたりする段階です。ネガティブな気持ちから、うつ病になることもあるため注意が必要です。

悲しみの5段階⑤~受容~

これまでの段階を経て少しずつペットとの別れを受け入れていく段階です。ペットのことを思い出すと悲しい気持ちにはなりますが、かわいい姿や一緒に遊んで楽しかったことなど、これまで一緒に過ごしてきた日々を良い思い出として受け入れながら、日常生活へと戻っていきます。

このような過程を経て、ペットロスから立ち直っていきます。
ペットを失ったことによる喪失感はとても大きく、「受容」の段階に至るまでには時間を要すかもしれません。ペットとの幸せな時を思い出しながらゆっくりと自分の気持ちと向き合っていきましょう。

悲しみの5段階⑤~受容~

あなたは大丈夫?~ペットロス症候群チェックリスト~

失った悲しみや苦しみが続くことで、精神面・身体面に様々な症状が起こります。
以下の症状がないか、自分の状態を確認しましょう。

孤独感や喪失感が強い

自分のせいで亡くなってしまった…など自分を責め続けている

涙が溢れて止まらない

食欲がない、または、お腹は空くが食べられない

下痢や便秘が続く

頭痛や肩こりがひどい

幻想・幻聴(亡くなったペットの姿が見えたり声が聞こえたりする)

やる気が出ない、情緒不安定

など

これらの症状は、個人差があります。
当てはまる項目が少ない場合でも、症状が重い場合はペットロス症候群の可能性があります。
また、沈んだ気持ちが続いている、日常生活に支障が出ているような状態が2週間以上続いているようでしたらペットロス症候群からうつ病を発症しているかもしれません。精神科や心療内科を受診しましょう。

あなたは大丈夫?~ペットロス症候群チェックリスト~

なぜこんなに辛いの?~人とペットとの関係~

なぜ、ペットを失うとこんなにも悲しく、落ち込んでしまうのでしょうか?

昔から、人と動物は共に暮らしていましたが、当時は人の作業の補助や狩猟のために使われる「使役動物」として飼われていました。
しかし、近年は「コンパニオンアニマル」(伴侶動物)として犬や猫だけでなく、うさぎ、インコ、ハムスターなどのペットは、家族の一員として一緒に暮らすようになりました。

ペットのお世話をしたり、スキンシップをとることで絆を深め、愛情を注げば注ぐほどペットたちも返してくれます。人生に癒しと幸せをもたらしてくれるペットは家庭の中心的な存在になっていきました。

そして医療が発展したことでペットの寿命も延びていきました。一緒にいる時間も長くなり、ペットへの愛情も深くなっていき、なくてはならない存在になりました。

そのため、人はペットを失うと深い悲しみを感じペットロス症候群に陥ってしまうのです。

ペットロス症候群が重症化しやすい人の特徴

ペットロス症候群が重症化しやすい人の特徴を大きく3つに分けてご紹介します。

1.ペットに依存し過ぎている人~ペットが唯一の家族~

ここでの「依存している」とは、ペットを家族やパートナーのように深く愛し、信頼関係を築いているということです。
ほとんどの飼い主さんはペットのことをとても大切にしていますので精神的に依存している状態であるといえます。
しかし、ペットが飼い主さんにとって“唯一”の家族的な存在である場合、度を越えた依存をしていることがあり、重度なペットロス症候群を引き起こしてしまう危険性があります。

例として、一人暮らしで“唯一”の家族がペットである方、誰にも言えない胸の内などを明かせる“唯一”の相手がペットと思っている方などが挙げられます。

2.後悔しやすく、自分を責め続けてしまう人~自分を許せない~

これは、上記「悲しみの5段階」の「怒り」の状態から抜け出せないことが原因です。
亡くなった理由が、飼い主の過失による事故であったとしても、天寿をまっとうした結果であったとしても、飼い主には少なからず後悔が残る場合が多いです。
そして、ペットのためにしてあげられなかったことで自分を許すことができず責め続け、苦しみから抜け出せなくなってしまうのです。

3.突然ペットを失ってしまった人~事故や急病~

何の前触れもなく心の準備ができていないまま、事故や発作などによりペットが突然死してしまった場合、特に重度なペットロス症候群になりやすいと考えられます。

3.突然ペットを失ってしまった人~事故や急病~

どうすれば抜け出せる?~ペットロス症候群からの立ち直り方~

ペットを失った悲しみは計り知れないものですが、長期間この苦しみが続くとうつ病に移行してしまう恐れがあります。最悪な事態を免れるためにも、少しずつ回復していかなければなりません。しかし「早く元気にならないといけない」「気丈に振る舞わなければいけない」「頑張らないといけない」などと無理をすることは逆効果です。

泣きたいときには思いっきり泣いてください。今の感情を押し殺すことはやめてください。家族や同じ経験をした方など、理解ある人と話しをすることで気持ちが落ち着くこともあります。一人で抱え込まず、周りの人を頼りましょう。

また、ペットを失った現実を受け入れることができはじめたら、ペットが使っていた物や写真などを整理しましょう。きっと楽しい思い出が蘇り、幸せな感情に包まれることでしょう。

ペットロス症候群を防ぐために~今からできる準備~

重度のペットロスにならないためには、「ペットは人より寿命が短い」ということを理解し、心の準備をすることが大切です。命あるものを飼うということは、いつか必ず別れが来ます。ペットを飼うと同時に最期の別れも意識しなければなりません。

また、ペットが亡くなってしまったら、葬儀や供養を行い、ペットへ感謝の気持ちをしっかりと伝え、弔ってあげましょう。葬儀や供養は、自分の気持ちを整理し死を現実として受け入れる機会となります。

ペットロス症候群を防ぐために~今からできる準備~

まとめ

ペットとの平凡な生活を送りながらもいつかは別れがくる、分かってはいてもそれは今日ではないと信じながら1日1日を過ごしてきたと思います。

ペットはあなたにたくさんの幸せを与え、反対にあなたもペットにたくさんの幸せを与えました。
あなたのことが大好きで、あなたのもとに迎えられて幸せだったでしょう。

ペットと一緒に過ごしたかけがえのない日々を振り返りながら、少しずつペットロスから立ち直っていきましょう。

SBIプリズム少短の獣医師 藤沼淳也

監修者プロフィール

獣医師 藤沼 淳也

獣医学部卒業後、動物病院にて臨床業務に従事。
猫専門病院の院長を経て、現在はより良いペットの生活環境の構築に尽力。

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