マルチーズの概要と歴史
艶やかな純白の被毛を持つマルチーズは「犬の貴族」とも呼ばれる気品ある犬種です。優しい表情や甘え上手な性格で、飼い主さん一家を癒してくれます。非常に歴史ある犬種で、交配を進めて現在のように小さくなったのではなく、初めから小さな体型でした。そのため、最も古い愛玩犬といわれています。
マルチーズのスタンダードな毛色はホワイトですが、少し黄色っぽいレモンや、薄いベージュのタンなどの色味の子もいます。
マルチーズの名前はイタリアの南にある「マルタ島」に由来しています。祖先は今から3000年以上前の紀元前1500年頃までさかのぼります。地中海貿易の拠点だったマルタ島に貿易商人が連れてきた犬が、マルチーズの元になったといわれています。
マルチーズは貿易船の通る先々に広まり、ギリシャでは紀元前500年頃の美術品に、マルチーズに似た犬の姿が描かれています。エジプトでは、王家が豪華な金の器で食事をさせていたという寵愛の記録が残っています。
その後14世紀初めにイギリスに渡ったマルチーズは、次第に貴婦人の愛玩犬として世界中の貴族に愛されるようになります。日本に伝わった時期は1960年頃で、1968年から15年間もの間、登録数ランキングが1位になるほど人気の犬種となりました。
マルチーズの特徴と性格
・大きさ:超小型犬
・体高:20cm〜25cm
・体重:2kg〜3kg
・寿命:12歳〜14歳
マルチーズの特徴は、何といっても、まぶしいほどに輝く純白の被毛です。わんちゃんの被毛は上毛だけで1層の犬種と、上毛と下毛の2層になっている犬種がいます。マルチーズはあたたかい地中海の島をルーツに持つことから、上毛だけのシングルコートになっています。
マルチーズの被毛は長く伸ばしていると床に届くまでまっすぐに伸び続けます。被毛はぎっしり生えていて、ふさふさと重みのある毛質です。
マルチーズの顔立ちは、つぶらな瞳と小さく真っ黒な鼻が、どこか幼い雰囲気を醸し出しています。体長は体高よりも長く、短めの肢がかわいらしい印象です。体つきは華奢で、機敏に体を動かします。
とても長い歴史を持つマルチーズは、近年人気の愛玩犬と比較すると個体差にばらつきが少ない点も特徴の一つです。
マルチーズは甘えん坊で従順、おとなしい性格です。飼い主さんが近づいてきたら、足音で察知して待ち遠しそうにしています。そして、隣に座ったり抱っこをせがんだりして側から離れようとしません。落ち着きがありますから、シニア世代のご家庭でも飼いやすい犬種でしょう。一方、知らない人にはあまり愛想をふりまかず、自分よりも大きな犬にも立ち向かっていく大胆な一面も。
注意したい点は、愛らしいからと甘やかしすぎると気が強い子に育ちます。排他的に来客に向かって吠え続ける、子どもに噛みつこうとするなど、神経質な面が全面に出てしまいます。飼い主さんが愛情を持って訓練すれば必ず応えてくれますから、子犬のうちからメリハリのあるしつけをしていきましょう。
マルチーズの日ごろの世話とケア
マルチーズは動くことが好きな犬ですが、気分転換程度の運動でOKです。室内でのボール遊びや庭でかけっこをするだけでも十分な運動になります。とはいえ、散歩は良いストレス発散になりますから、1回に10分〜20分程度行いましょう。寒さに弱く、屋外での飼育には向いていません。
マルチーズはシングルコートですが、細く長い毛は絡まりやすく、汚れもつきやすいです。特に換毛期には毎日1〜2回ブラッシングをして美しい毛並みを保ちましょう。
被毛は放っておくと引きずって歩くほど長くなります。美しく毛を伸ばしたい場合は、毛先を汚さない処置(ラッピング)が必要になります。一般的な家庭では、「パピーカット」と呼ばれる短めに刈るスタイルがお手入れもしやすく人気です。
黒目がちの大きな目は、涙やけを起こして目の周りの毛色が変色しやすいです。気付いたときにウエットティッシュなどでこまめに拭き取ってあげてください。長い毛が目にかかる場合は、頭部の毛をリボンでまとめてあげると良いでしょう。
またマルチーズは、小型で消化器官が小さい犬種です。食欲が出ずにごはんが食べられないと、エネルギーが不足して低血糖症を引き起こす恐れがあります。日ごろからおやつを与えすぎず、栄養価の高いドッグフードを食べる習慣をつけておきましょう。
マルチーズを飼う上での注意事項
冬場に日光に当たる時間が減ると、真っ黒だった鼻の色が茶色やピンクに変色することがあります。これは「ウインターノーズ」と呼ばれる現象で病気ではなく、夏になると黒に戻ります。
マルチーズのように全身が白い犬は遺伝的に目の病気になりやすいといわれ、眼瞼内反症や逆さ睫毛、二重睫毛といった異常が見られるケースがあります。
また骨もあまり強くなく、膝蓋骨脱臼になりやすい犬種です。肥満にならないように注意することと、日ごろから適度な運動をして靭帯を鍛えてあげることを意識しましょう。
耳のケアも忘れずに行いましょう。マルチーズのように垂れ耳で、周りが長い毛で覆われていると通気性が悪くムレてしまいがちです。耳そうじが不十分な状態が続くと、細菌・ダニが繁殖して外耳炎を招いてしまいます。
幼い頃から毎日スキンシップをして、飼い主さんが耳に触れることに慣れさせてください。耳を痒そうにしている、ニオイがするなどの症状が見られたら、すぐに動物病院を受診しましょう
監修者プロフィール
獣医師 藤沼 淳也
獣医学部卒業後、動物病院にて臨床業務に従事。
猫専門病院の院長を経て、現在はより良いペットの生活環境の構築に尽力。