【獣医師監修】人獣共通感染症(ズーノーシス)とは?~猫と生活するうえで知っておくべき知識~

2023.07.24

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【獣医師監修】人獣共通感染症(ズーノーシス)とは?~猫と生活するうえで知っておくべき知識~

猫好きの皆さん、猫ちゃんとの暮らし楽しんでいますか?
猫ちゃんは愛おしくかけがえのない存在ですが、あまりにも濃厚なスキンシップは、猫ちゃんから病気をもらったり、反対に私たち人が病気をうつしてしまう可能性があります。

このような動物から人に、人から動物に感染する感染症を「人獣共通感染症(ズーノーシス)」といいます。
大切な猫ちゃんと楽しく健康的に暮らしていくために、人と猫の共通感染症について学び、大切な猫ちゃんとの関わり方を見直してみましょう。

人獣共通感染症(ズーノーシス)とは?

人獣共通感染症とは、別名「人と動物の共通感染症」「ズーノーシス」と呼ばれる、動物から人へ、人から動物へ感染する感染症のことです。
人獣共通感染症の原因となる病原体は細菌、寄生虫、カビなどさまざまで、日常生活の中に感染リスクは潜んでいます。

日常生活の中の人獣共通感染症感染経路例

・猫にかまれる、ひっかかれる
・猫とキスをする
・自分の皿や箸を使用し猫一緒に食事をする
・猫と一緒に寝る
・猫のトイレ掃除をする

人獣共通感染症(ズーノーシス)とは?

人獣共通感染症にはどんな病気がある?

人獣共通感染症には、さまざまな病気がありますが、猫から人に感染する代表的な病気をご紹介します。

1.猫ひっかき病~感染した猫にひっかかれたり咬まれたりすることで感染~

猫ひっかき病はノミが媒介する「バルトネラ菌(Bartonella henselae)」により引き起こされる感染症です。保菌猫に咬まれたり、ひっかかれた傷からバルトネラ菌が体内に侵入し感染します。
猫が感染しても症状はありませんが、人が感染すると受傷部位の丘疹や膿疱、リンパ節の腫れ、発熱、頭痛、筋肉痛などの症状が現れます。
軽度の場合、自然に治ることが多いですが、まれに脳炎等重症化することがあります。
猫の爪はこまめに切り、猫にひっかかれたり咬まれたりしないように注意しましょう。また、ノミ予防を定期的に行いましょう。

2.パスツレラ症~猫の口にいる常在菌が感染する~

パスツレラ菌はほぼ100%の猫の口腔内に存在しており、猫は保有していても通常は無症状ですが、まれに肺炎を引き起こします。
人の場合、猫に咬まれたり、ひっかかれた傷から感染したり、猫とのキスや口移しでごはんを与えるなどの過剰なスキンシップで感染します。
傷口から感染した場合、受傷後短時間で傷口が赤く腫れ、激しい痛みが現れます。
また呼吸器系に感染すると、風邪のような軽度のものから重篤な肺炎など様々な症状を引き起こします。基礎疾患があり、抵抗力が低下している人は発症しやすい傾向があります。
パスツレラ症予防のために、寝室に猫を入れない、口移しでごはんを与えないなど、過剰なスキンシップを避け、猫に触れた後はしっかりと手洗いうがいをしましょう。
猫の爪をこまめに切り、猫から傷を受けないように対策することも大切です。

3.Q熱~猫の出産時は要注意~

Q熱はコクシエラ菌(Coxiella burnetii)という細菌による感染症です。
多くの動物種がコクシエラ菌を保有しており、猫が感染しても多くは無症状か軽い発熱程度の不顕性感染です。妊娠猫が感染すると、流・死産を引き起こします。
感染猫から排出された糞便、尿、羊水などとの接触、これらにより汚染された粉塵の吸入により人に感染します。
人が感染した場合、急激な発熱や頭痛、筋肉痛など、インフルエンザのような症状がみられます。多くは2週間程度で回復しますが、心内膜炎、肝炎など重症化することもあります。
Q熱の予防のために、分娩、流・死産した猫を世話する際には手袋、マスクを着用しましょう。

Q熱~猫の出産時は要注意~

4.トキソプラズマ症~妊婦さんは要注意!猫の便に排出された虫卵が口に入り感染~

トキソプラズマ症はトキソプラズマという原虫による感染症です。
トキソプラズマに汚染された生肉や加熱不十分な肉を食べたり、猫の便中に排出された虫卵を、汚れた手や生野菜などを介して経口的に摂取することで感染します。
健康な人が感染してもほとんどの場合、無症状ですが、一過性に発熱やリンパ節腫脹などの症状が現れることがあります。妊娠中の方が初めてトキソプラズマに感染すると、流産・死産を引き起こしたり、胎児に脳障害や先天性の疾患が生じる可能性があるため、妊娠中の方は特に注意が必要です。
妊娠中の方は猫のトイレ掃除は他のご家族の方にやってもらいましょう。
また、肉類は十分に加熱し、野菜や果物などはしっかり洗ってから食べましょう。

5.回虫症~子猫を迎え入れたら必ず糞便検査を!〜

猫回虫は猫の消化管に寄生する寄生虫ですが、糞便中に排出された虫卵を経口的に摂取することで人にも感染します。
猫が感染した場合は、下痢、嘔吐、食欲低下などの症状がみられます。乳汁を介して子猫にも感染します。
人に感染した場合は、幼虫が肺や肝臓などの臓器へ移行し、肺炎や肝炎などを引き起こしたり、眼に移行して視覚障害などを引き起こします。
回虫症予防のために、猫を触った後はよく手を洗いましょう。
猫の回虫症は子猫に特に多い寄生虫疾患です。回虫の卵は糞便検査で確認できるため、新しく子猫を迎えた際には必ず糞便検査を行いましょう。

6.皮膚糸状菌症~感染した猫とのふれあいで感染~

皮膚糸状菌症は、皮膚糸状菌という真菌(カビ)の一種により引き起こされる感染症です。皮膚糸状菌が猫の皮膚や被毛に感染し、感染した猫と触れ合うことで人にも感染します。
人では白癬、タムシとも呼ばれ、円形の赤い発疹がみられます。からだのどこの部位にでも感染します。人の水虫(足白癬や爪白癬)は皮膚糸状菌が足に感染したものです。

ノミがひきおこす猫の皮膚病「ノミアレルギー性皮膚炎」と、真菌が原因の「皮膚糸状菌症」についてこちらの記事で詳しく説明しています。

■関連記事
【獣医師監修】猫の代表的な皮膚病2選~予防と治療方法について知ろう~

7.マダニが引き起こすさまざまな感染症~重症化すると命にかかわる病気~

マダニは猫にも寄生しますが、人にも寄生します。マダニは体の中にさまざまな細菌やウイルスを持っていることがあり、人に寄生し吸血することでさまざまな病気を媒介します。

マダニが媒介する感染症例

・重症熱性血小板減少症候群(SFTS):発熱、消化器症状(嘔吐、下痢、下血など)、出血傾向
・ライム病:赤い皮疹、発熱、だるさ、関節炎、神経症状など

他にもマダニが媒介する感染症はいくつかありますが、どれも重症化すると命にかかわる恐ろしい感染症です。野山や草むらに入るときには、肌の露出を控えるなど、マダニに咬まれないように注意しましょう。

マダニが引き起こすさまざまな感染症~重症化すると命にかかわる病気~

人獣共通感染症の予防方法

今回は代表的な人獣共通感染症を紹介しましたが、他にも警戒しなければならない病気が存在します。猫ちゃんと健康的に暮らしていくためには、感染症対策をしっかりと行うことが重要です。

1.猫との過剰なスキンシップは避ける

かわいくて仕方ない猫ちゃんですが、キス、口移しや箸わたしで食べ物を与える、一緒に寝るなどのような濃厚なスキンシップは避け、適切な距離を保って接することが感染リスク低減につながります。

2.猫と触れ合った後は手洗いを徹底する

猫のトイレ掃除をした後や、猫と触れ合った後はしっかりと手を洗いましょう。手洗いは感染症の予防に非常に重要です。

3.猫の爪切りやシャンプーなどのお手入れを行い、家は清潔に保つ

猫の爪はこまめに切りましょう。猫の体についた汚れはすぐに落とし、必要な場合はブラッシングやシャンプーを行うなど、猫の体を清潔に保ちましょう。
また、家の清掃もこまめに行い、生活環境を清潔に保つことも大切です。

4.猫は完全室内飼育に努める

猫は完全室内飼育にすることが望ましいです。完全室内飼育にすることで病原体との接触リスクを減らせます。

5.猫の寄生虫予防を行う

定期的に寄生虫の予防を行うことも大切です。ノミ、マダニなどの外部寄生虫だけでなく、おなかに寄生する内部寄生虫(回虫など)も一緒に予防や駆虫ができるお薬もありますので、猫ちゃんのライフスタイルにあったお薬を獣医師と相談して処方してもらいましょう。

人獣共通感染症を恐れずに猫と暮らそう!

大切な猫ちゃんから病気をもらってしまうのも、猫ちゃんにうつしてしまうのも悲しいことですよね。
人獣共通感染症についての知識を正しく持ち、猫ちゃんと楽しく健康的に暮らしましょう!

人獣共通感染症を恐れずに猫と暮らそう!

SBIプリズム少短の獣医師 藤沼淳也

監修者プロフィール

獣医師 藤沼 淳也

獣医学部卒業後、動物病院にて臨床業務に従事。
猫専門病院の院長を経て、現在はより良いペットの生活環境の構築に尽力。

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